文章置き場

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Funkotにおけるスペイン文化圏からの影響の可能性について

かな~り久々にブログ動かしてみました。

細々とFunkot集めたり聴いたりしております政(まさ)と申します。

プロフィールのところにもありますが、実はSoundcloudにもmixアップしたり過去のオーダートラックまとめてたりしますので、よければ聴いてみてください。

soundcloud.com

今回はちょっと突っ込んだ話題ですが、普段なんとなく考えていたりX(旧Twitter)でちょこちょこ呟いたりしていた、Funkotの元ネタ関連の話を書き起こしてみたいと思います(思考の整理も兼ねて)。

 

 

はじめに

この記事にたどり着いている皆さんであれば既にご存じのとおりと思いますが、Funkotはその誕生から現在まで様々なジャンルのサンプリング・引用を重ねて成り立っています。

ameblo.jp

↑Dugem Rising™のSuamaさんによる元ネタ解説ブログ

note.com

紀伊さんによる元ネタ解説ブログ

 

特に引用されがちなフレーズやサンプルをおおざっぱにくくると、「クラシックトランス」「洋楽(2000年前後のポップス、あるいは80年代とかの懐メロ)」「EDM」「中国語歌謡(=華僑にウケるネタ)」「その他インドネシアで流行った曲のフレーズ(=インドネシア人の客にウケるネタ)」といった感じになります。

Funkotはその性質上、客にウケることを至上とした商業音楽(工業製品)なので、自然と上記のようなメジャー分野からの引用が主となります。

ただし、一部は元ネタが判明していなかったり、「なんでこんなところから?」と思うようなマイナー分野からの引用もあったりします。今回はこちら側、より具体的に言えば「スペイン文化圏」との関わりに焦点を当てて掘り下げてみたいと思います。

 

L'Estaca

最初に紹介するフレーズは「L'Estaca」という曲のフレーズです。

Funkotでの登場頻度はそこまで多くはありませんが、一昔前のトラックでちょこちょこ引用されていた印象です。

amazon.co.jp

↑出所不明のFunkot mix音源(CyberDJ™の音源らしい…)。タイトルそのまんま「Lestaca」というトラックが収録されてます。サウンド的には2010年よりも前っぽい?

m-project-jpn.bandcamp.com

↑伝説のFunkotコンピシリーズ盤「Funky Teknique」から。Ronny御大の「Ayla 2012」の間奏でL'Estacaのメロディーが使われています。

この「L'Estaca」は、スペイン生まれの歌手リュイス・リャックによる1968年の曲が元ネタとなっています。

open.spotify.com

実は、L'Estacaのフレーズが流通する範囲というのは非常に限られています。というのも、この曲の成り立ちには極めて政治的・民族的なアイデンティティに関わる背景が存在するからです。

さて、まず、リュス・リャックの「レスタカ」。この曲は1939年のスペイン内乱以降、フランコが行ったカタルーニャ語カタルーニャ文化に対する弾圧的な政策に対抗して「カタルーニャ語による新しいポピュラー音楽」を推進する音楽運動「ノヴァ・カンソー(新しい歌)」のシンボル的な歌。

 

引用元:本田健治「音楽が世の中を大きく変えた時代〜1974年、スペインの記憶カタルーニャの『ノヴァ・カンソー』その1」『e-magazine LATINA』2021年2月24日

https://e-magazine.latina.co.jp/n/ne055e25f08a1(アクセス日時:2024年3月2日)

上記のような背景から、「カタルーニャアイデンティティ感情を高揚させる歌」として、また「政治的な自由を求める闘争歌」として、カタルーニャ地方を中心としたヨーロッパの一部の民衆の間で歌い継がれてきました。

それがなぜ、遠く離れたインドネシアのダンスミュージックの中に引用されるのでしょうか?

この問いに対する推測として、筆者はスペイン産のダンスミュージックである「マキナ」がヒントを握っていると考えています。

ここでいったん「L'Estaca」の話題を脇に置き、今度はオリジナルがマキナの楽曲について掘り下げてみたいと思います。

 

Here We Go

続いてのフレーズは、発表当時日本のFunkotリスナー達に衝撃を与えた不朽の名ミックステープ「KMI™ Mixtape Vol 1」から、DJ Andy - Here We Go 955のフレーズを紹介します。

soundcloud.com

↑曲自体は18:30くらいから、該当のフレーズは20:48から登場します。

展開・サウンドの斬新さ、完成度の高さゆえか、これまでこのmixで使われている楽曲の元ネタについて言及されることはほぼありませんでしたが(あくまで筆者の観測範囲内)、実はこのトラックの元ネタはマキナである可能性が非常に高いです。

youtu.be

↑メインのフレーズ(1:24~)が一致しているだけでなく、2:24~あたりからのリフまできちんとfunkotで再現されてます

ここまで来てかなり回りくどくなってしまっていますが、ではそもそもなぜファンコットにマキナが引用されているのか?という疑問が出てきます。

ここから先は、この問いに対する自説とその他考察を記載してみます(あくまで筆者の偏見と憶測によるものです)。

真相はリミキサー本人のみぞ知るというか、直接聞くしか正解に辿り着く方法は存在しないのですが、あくまで考古学的ロマン程度にお読みください。

 

マキナとファンコット

話が前後してしまいますが、上記の通りもしマキナを引用しているファンコットが存在するとすれば、最初に紹介した「L'Estaca」がファンコットに引用されているのも辻褄が合います。

というのも、「L'Estaca」のフレーズはそのままマキナのクラシックアンセムとなっているからです。

youtu.be

スペインのダンスミュージックなので、同じ文化圏の「L'Estaca」のフレーズが引用されるのはある意味当然なのですが、では一体そのことがなぜ国外にこのフレーズが流出することと繋がるのでしょうか。

ここまで来るとマキナ有識者の方はピンと来るかもしれませんが、マキナにはスペイン以外の地域でもう一つ、大きなシーンを持つ国があります。

youtu.be

90~00年代にかけて、マキナはイギリス北東部を中心に主に労働者階級の間で広がり、支持されるようになりました。

ちなみに、マキナはその源流を辿ると初期のトランス・ユーロダンス周辺に行きつきますが、源流を同じくする音楽でその頃北西部で支持されていたのが、スカウスハウスでした。実は、ファンコットは初期の段階から明確にスカウスハウスの影響を受けています(筆者過去記事も参照ください)。

masamasadj.hatenablog.com

筆者が専門家でないため、イギリスの北東部と北西部、マキナとスカウスハウスでどれだけの近接性というか相互作用があったかはわかりませんが、「イギリスのダンスミュージックでトランス・ユーロダンスから発展した音楽」というくくりでインドネシアから見たときに、どちらにアクセスする可能性も考えられます。

上記のような理由から、ファンコットがマキナから影響を受けていると考えてもおかしくはないのかな、と思っています。

 

排除しきれていない可能性

長々と書いてしまいましたが、今までの推測はあくまで偏見と憶測に基づくものですので、最後にもう一度今回の記事で扱いきれなかった部分を記載しておきます。

  • オリジナルがマキナではなく別に大元となる曲が存在して、そちらから引用している可能性
    • →マキナ有識者の方もし読んでいらっしゃったら、ぜひコメントください。ミックス形式の資料については、紹介していない楽曲も元ネタわかればぜひご教示いただけますと幸いです。
  • リミキサーがイギリス経由とかでなく、はじめからスペインのマキナの存在を知っていた可能性
    • →もし古参リミキサーとこの辺の会話されている方いらっしゃいましたらご教示いただけますと幸いです。

 

おわりに

だいぶいろいろなジャンルを横断した記事になってしまいましたが、あらためてFunkotの懐の広さ・奥の深さを感じました。

近年はインターネットの発達によって、Funkotも様々なジャンルの音楽との融合を遂げていますが、逆にルーツの方へ向かってみてもまだまだ未知の領域が多いということがわかりました。

この記事を読んだFunkot・マキナ関係者の方々がお互いにちょっとでも興味を持ってもらえればうれしいなと思います(誰目線?)

では今回はこの辺で。